便意

うちの妻の便意は何の前触れもなく、突然訪れる。

それも、すぐにトイレに駆け込めない状況において頻発する。

これまでも九死に一生を得たことが何回かあった。大きな幹線道路を走行中の車内、外国のバス乗車中など。

しかし、いつもいつもそんなに奇跡は起こらない。

雪の積もる冬のある日、田舎道を散歩をしていると急に妻がモゾモゾし始めた。もしやと思っていると、案の定、もう残された時間はそれほど長くないらしい。辺りにはお店など何もない。最後の望みをかけて妻は公衆トイレに駆け込もうとした。しかし、そこは冬季閉鎖中だった。絶望する人間の顔を初めて見た瞬間だった。

 

妻は雪深い林の中に消えていった。