鬼怒川温泉ガクブル紀行

鬼怒川温泉が特別好きなわけではない。
と言うか、なんとなくわびしい気分になるので、元気な時にルンルンした気分で向かう場所では少なくとも私の中ではない。
でも定期的に行ってしまうのはなぜか?
つげ義春的な雛びた雰囲気が私には合っているからかもしれない。

妻が温泉に行きたいと言うので、今回は家族を連れて行った。
晩飯後、妻が先に露天風呂に入ってきた。
「月がとても綺麗だったよ」とごきげんで帰ってきたので、私も浴衣姿で露天風呂に向かった。
月や星空を眺めながらのんびり歩いていると、2月の鬼怒川の芯から冷える底冷えが急に襲ってきた。
まるでインフルエンザにかかった時のように、体全体がガクガクブルブル震えてどうしようもなくなった。
急いで露天風呂に向かって走るのだが、あの雛びた温泉にありがちな硬い便所サンダルが痛くていまいちスピードが出ない。
そうこうしているうちにも震えは強くなり、自分の意思ではもはや止められない。
急いで浴衣を脱ぎ捨て、ようやく風呂に飛び込み、束の間の安らぎを得る。

鬼怒川温泉はいかんせんゆるい。体を拭こうと湯から上がると、また寒くてガクガク震える。
やばい、これは日が昇るまで風呂から上がれないパターンではないかと恐怖に襲われた。

そこで一案。
最初に決死の覚悟でバスタオルをかごに取りに行き、それを頭に乗せたまま再度体を湯に沈めて温まる。
そして風呂から上がった瞬間に秒で体をバスタオルで包み込むのだ。

この案は成功した。
冷えのスピードを知恵が上回ったのだ。

部屋に帰る暗い夜道、途中でパンツを失くした。